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子供の頃からのくせ、いや、防衛策と言った方が正しいだろうか?

兎に角負けたくなかった。両親がイナイと言う事で、

周りは同情と興味の入り混じった目で見てきた。特に気にもしなかった。

気にしてたら自分がカワイソウと認めてると思った。

俺は育ててくれた祖父母が大好きで、とても幸せだった。そんな俺の気持ちを知らずに、カワイソウって思っても欲しくない。

大人なって、幼い頃からの夢である弁護士になれた。

 

その様子を見守るように祖父母が他界した。祖父母に恩返しもできず、只々悔しい思いが溢れる。それでも腐らずに前をみれたのは、中学の時からの親友が俺の手を離さず握りしめてくれていたからだ。

晴れて弁護士事務所に務め出してから色々あったのは、俺の人生はとことん試練に溢れたものだと思い知る。



 

左手に付けた腕輪を軽く触れる。

落ち着け、落ち着け、王泥喜法介。ピンチの時程、ふてぶてしく笑え。

俺の守りたいものは何だ?己か?見栄か?建前か?世間体か?違うだろう!依頼人、俺は信じ抜くと誓った!先生からも、あの人からも…!

真っ直ぐに目の前に立ちはだかる、巨大な壁を睨み付ける。己の信じたものを踏みにじられないように。

 

「まだ諦めないんだね?いいさ。徹底的に行こうじゃないか」

 

右指をパチンっと鳴らし、この状況を楽しむかのように王泥喜の壁である牙琉検事は口の端を少しだけ上げる。

 

「ええ、俺は信じてますからね。それに、諦めも悪いと自負してますから」

 

まだ俺は諦めていない。依頼人を信じているから。



 

悪足掻きの正体



 

カンカン、と木槌が響渡る。

 

「オドロキさん!やりましたね!」

「え?」

「無罪ですよ!見事に無罪を勝ち取りましたよ!」

 

みぬきは王泥喜の腕を組み、満面の笑みを向けた。声をかけられた王泥喜本人は、気の抜けた答えを返す。

裁判は圧倒的に弁護側が不利かと思われたが、結果は無罪を勝ち取っていた。被告人は言葉が通じない。それでいて、常に怯えていた。何時もながら隠し事の多い依頼人にぶち当たることが多い。それでも無罪を勝ち取れたのは、

牙琉検事のおかげだ…。でも、俺は…また…。

 

「あ、ありがとう。マキさんの無実を勝ち取れたね」

「ハイ!マキさんすごく喜んでました!」

 

ガンッ!!鈍い音がした。音のする方を見た。係員に取り押さえられてもなお王泥喜を睨み、証言台に拳を叩きつける。

 

「良かった、じゃねーぞ!お前は!俺を告発した事を後悔させてやるからな!」

 

既に理性が飛んでいるのか、己の罪を棚に上げ、自分を告発した王泥喜に罵声を浴びせる。長くまとめていたリーゼントが乱れ、髪の間から見え隠れする鋭い眼光が王泥喜を刺す。咄嗟にみぬきを背後に隠し、逃げる事も出来ず只々眉月の顔を見る。

 

俺は…、また…。

 

「お前は自分の先生を独房送りにして、次は俺か!お前に関わると誰もが独房送りにされちまうな!」

「静かにしろ!眉月!」

 

係員に両側から押さえられてもなお、眉月の言葉は王泥喜を責めたてる。ずっとずっと、気にしていた事。心の中でもがいて苦しんでいた事実を眉月が傷を深くする。ガクガクと足が震え、立っているのも精一杯で、冷や汗が止まらない。

 

「オドロキさん大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫。俺は…大丈夫…だから」

「やめないか!ダイアン!」

 

法定内に牙琉検事の声が通る。その声は怒りを感じる。

 

「が、牙琉…、お前は、俺の味方じゃないのかよ!」

「ダイアン、君も知っているはずだ。法定で僕は真実しか認めない」

「だ、だけど!長年一緒にしてきたメンバーの俺

よりも、お前の兄貴を、お前の周りから奪っていってるじゃねーか!」

 

小さく王泥喜が震えた。顔色は更に白くなっていく。

 

「やめろダイアン!」

 

すでに狼狽えていた眉月は、必死に牙琉に縋り付こうとする。情けないと思った。牙琉の理想と信念もダイアンに、眉月には理解してくれているものだと信じていた。其れはたった今もろく崩れた。

 

「係員、早くそいつをここから連れ出してくれ」

 

よく通る彼の声は、少しだけ掠れて揺れている。ギリギリと握りしめた拳は白くなり、シルバーのリングが嫌というほど冷たさを増す。

 

「オドロキさん、とにかく外に出ましょう」

「ありがとう…」

 

小刻みに震えそれでも落ち着こうと、深呼吸を繰り返す。俺は正しい事をした。真実を暴いた。なのに、なのに、俺が奪っている?牙琉検事から奪っていってる?

 

「お嬢さん僕がおデコくんを外に案内するよ。このままだとちょっと危険だ。コレであたたかい飲み物を買ってきてくれないかい?」

「で、でも…。はい。分かりました」

「牙琉検事、俺は…大丈夫です…」

「顔面蒼白で強がらない。ほら行くよ」

 

ズルズルと引きずられ、足がもたつく。情けない。かっこ悪い。と言う感情が頭をよぎる。


 

「おデコくんの手は、こんなにも震えてとても小さい」

 

ぎゅっと大きな手が俺の手を包む。

情けないほど俺の体は震えている。強がっていてもこの人の前では、嘘だと暴かれてしまう。どうしてこんなに優しいんだろうか?

じっと顔を、目を見てしまう。こんなに俺も強くなりたい。

 

「俺は…本当に、なんて言ったら良いか…」

 

どう思っていても、どう考えていても、言葉が出てきてくれない。

ずっとずっと、俺にまとわりついて離れない強がりの防衛策も、こんな時には表れもしない。

 

「僕はね、真実をみたいんだ」

 

俺の目を見る。それは真っすぐで純粋な目だ。

 

「でも、俺は牙琉検事にとって掛け替えの無い人たちを…」

「おデコくん。よく聞いて」

 

真っすぐな瞳がおこっている。俺だって依頼人の、マキさんの無実を信じて戦ってきた!だけど、その真実の先に有った物が、自分の知っている人の関係を崩してしまうモノだったら?

また?なんで俺にだけ?

 

「でも!」

 

色々考えても自分に分が悪い事は知っている。自分の先生を法曹界から引きずり降ろした時もそうだ。

どんなに自分が間違った事をしていない!と考えても落ち込んでしまった2ヶ月。

2ヶ月ですべてが消えていく。先生も、牙琉検事の知り合いも。何もかも。

溢れ出す涙を止める音が出来なかった。

出ている事すら気づかないぐらい。

 

「僕が居る。僕は消えたりしないから安心して」

 

ぎゅっと抱きしめた。

反則だと言われても卑怯だと言われても、僕はおデコ君に唇に口づけをした。

 

「僕がいす証拠だよ?おデコくん」

「あんた、なに…!」

 

顔を真っ赤にさせたりしているけれど、僕はきっと君が好きなんだ。

 

「僕はおデコ君にあったら必ず、おデコにキスをしよう。消えないためのおまじないさ」

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