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「やったー!スカイハイデビュー2年目にしてKOHの座に輝いたー!流石は風の魔術師スカイハイ!」
マリオの声が響き渡る。
「強盗犯を一気に2人も確保し、2位のワイルドタイガーに大差を付けたー!これには流石のワイルドタイガーもぐうの音も出ないー!」
「ありがとう!そしてありがとう!」
敬礼したスカイハイの姿と声がTV中に溢れた。
「うっせーな。マリオの奴。分かってるっつーの」
ボリボリ後頭部を掻きながら、ボソボソ悪態をつく。青いマントがひらひらと風に揺れる。
「まぁイイじゃないの。これで晴れて堂々と逢えるんでしょ?」
「そうだけどファイヤーエンブレム…」
「だったら素直に喜んであげなさいな。スカイハイはこの日の為だけに頑張ってきたんだから」
ポンと頭を撫ぜてむくれるワイルドタイガーに諭した。
「あいつは真っ直ぐ過ぎなんだ。俺を大事にしたいと言っておきながら、自分自身については全く置き去りで…。俺ばっかり甘やかして、そんな状態にしたくなかったんだ…」
ファイヤーエンブレムは肩を優しく抱き寄せる。
「でも、でも、逢えなくて1番苦しかったのは俺で我が儘で言った癖に、あいつを傷つけてるはずなのに自分も同じぐらい傷付けて…。何度も約束破って逢いたいと思ったか…!」
「あなたって本当に不器用ね。お互い惹かれてしまっているのに距離をおくなんてナンセンスよ?好きなら、愛してるならそう言えばイイじゃない」
肩を貸して涙するタイガーの頭を撫で落ち着かせる。
あなたは事恋愛に関しては臆病なのよ。あなたの考えなんてスカイハイは分かってるの。それでもあなたの意見を尊重したのよ?今度はあなたから素直になりなさい。
「私が肩を貸せるのはここまでよ?スカイハイ出てらっしゃいな」
「え⁉」
「流石はファイヤー君だ。暴露てしまっているとは」
「ほら!あなたの大事な人なんでしょ?バカな事を考えるまえにしっかり捕まえておきなさい!」
「すまない」
「私にラブラブな所見せつけないで頂戴。一足先に会場に向かってるから。アニエスには適当に言っててあげるわ」
ひらひら手を振り愛車に乗り込む。
今度こそ逃げないのよ虎徹。幸せはこんなに近くにあるんだから。
「ワイルド君、失礼」
「え!」
所謂お姫様抱っこをして、一気に上空に上がる。
雲より高く、月がとても近く。
彼女はやはり美しい。毎日少しだけ顔を合わせる程度でも、見惚れていたのを気づいていたかい?
抱き締めたくて、キスをしたくて堪らなかったのを知っているかい?
「ワイルド君…いや、虎徹…。逢いたかった。すごく逢いたかった。泣いている顔を誰にも見せたくない」
変わらない優しい声で力強く。
「俺も逢いたかった。…ごめん…本当に…ごめん」
「これで私は対等の立場になれたと思うんだ」
「バカ…。キースは俺にとって最高のヒーローだ。やっと、やっと決心出来たんだ」
「何をだい?」
「半年前の…答えを出したい。俺は、キース・グッドマンを愛している」
琥珀色の瞳が揺れる。強く、とても強く。
「私も愛しているよ」
「俺は……乱暴に………されてから…子供が作れない…身体で、女として欠陥だらけで、キースの子供を宿してやれない…」
小さな肩が震えている。そんな辛い事を言わなくてもいいんだ!
私はそのままの虎徹を愛しているんだ。
それ以上話せないように強く抱き締めた。
「言わなくてもいいんだ。虎徹が辛いと思った事は言わなくてもいいんだ!」
「言わせて欲しい。もう過去から逃げない…。こんな俺だけど、キースを一生掛けて愛し続ける…」
これ以上素敵な事はないよ。私はKOHと言う肩書きは必要じゃないんだ。
虎徹…あなただけのヒーローになりたかったんだよ。
「何度でも言うよ。私は有りのままの虎徹を愛している。もう逢ってはいけないなんて言わないでくれるかい?」
「俺がもう言える訳が無い。こんなに愛しているから」
マスクを少しだけずらし、軽く触れる口づけをした。
「おっと授賞式がはじまってしまう。急がねば!今から飛ばすからしっかり捕まっててくれ!」
「あははそうだった!キー…いや、スカイハイおめでとう!」
遅刻して二人ともアニエスにこっ酷く叱られるのは少し後の話。