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そろそろ真冬と言われる季節。はぁーっと吐く息が白くなる。
寒い寒い。と、肩を竦めダウンジャケットの襟を上に引っ張ってみる。
「あー、こんな事ならマフラーしておけばよかった。年には敵わないって事ですかい。」と一人ゴチてみた。
 
不意に手が暖かいものに包まれる感覚があった。
気がついてみて見ると、キースが俺の手にマフラーを巻いている。カシミアのグレーを基調とした上等なマフラーがぐるぐる巻き。あの…これ両手巻くんですか?
 
「何してんだ?」と聞くと、「辛い顔してたから手を温めようと思ってね。」とよく分からない返事が返って来た。
「お前は寒くない訳?」「全然大丈夫だ!お酒でぽかぽかする!」
うらやましいこって…。
 
特に辛く無いんだけど。まぁ、末端冷性だけど。そりゃあ中年ですけど。思っててむなしくなってきた。
 
「てか出来れば首もと暖めてくれると助かるんだけど?」「そうか!そうだね!」と何を思ったかマフラーを首にぐるぐる巻きにしてくる、、、くるしい…。
「キース、気持ちは嬉しいんだけど…、これは流石に苦しい。」「そうか!すまない!どうやら加減が分からなくてね。」満面の笑みでマフラーを巻きなおす。
 
おお!やっぱりカシミアって暖かいんだなぁ。前ネックウォーマーしてたら、バニーちゃんにすっごい顔で見られたっけ…。マフラーの時もそうだったなぁ。何が悪いんだ?
 
「これでどうだい?虎徹君!」天使の微笑みというか無垢な笑みと言うか、ちっとも汚れてない顔がすぐ近くにある。酒臭いが…。相変わらず大型犬の様にくっついては、またくっついて何を言ってもその距離が離れる事はない。
 
 
 
シルバーステージの寿司バーで食事と酒を嗜み、そろそろ帰ろうとしたら、「もっと飲みたい!」と言い出す始末。
「お互い明日仕事だろ?早く帰って風呂入って寝たいんだよ。」と宥めるも全くダメ。
最終的には、「私の家に泊まればいい!それが良い!」と自分で納得して俺の意見は聞いてもらえない。
 
長年の付き合いだが、どうもこいつが苦手で掴めない所が正直苦手だ。
ちょっと距離を置いているはずなのに、何時の間にか隣に居てびっくりする。
バニーが隣に居ても、ニコニコしながら俺の隣に座り、ワイルド君今日はそしてバーナビー君御機嫌よう。と笑顔を振りまく。
多少他人と距離を取りたがるバニーですら、拒否する間も与えずに自分のペースに持って行く。
 
幸いコンビニエンスストアが空いている時間で、キースをコンビニエンスストアの前のベンチに腰掛けさせた。
酔っぱらいを連れて店内に入るほど体力が残ってない。適当にビールやワインなどをカゴに突っ込み、おつまみも適当に。好みなんて知らないし意見も言わせない。買った俺の好み。文句は受け付けない。ふん!とレジに持っていく。
ふと外を見ると、キースがこちらに手を振っていた。まさにこんな感じで。→\(^▽^)/ワイルド君だーと言ってるように見てた…。
 
「はぁあああ…」深いため息をつく。「なんだかよく分からないけど楽しそうだね。」と店員に言われたが、「代わってくれる?」と訪ねると、「とんでもない。」と当たり前な答えが返ってきた。そりゃあそうだ。俺も本気で帰りたい。
 
「待たせたな。」適当に買ったから好みなんて知らないぞ。ガシャガシャとビニール袋がなる。
「大丈夫だ虎徹の好みの酒なら大歓迎だよ。重いだろう?私が持つよ。」俺の手からビニール袋を取り、左手で持つ。
「お前酔いは大丈夫なのかよ?」「私はヒーローだから大丈夫だ!そして大丈夫だ!」大きい声でいつも通りに言っても、酔っぱらいが言ってるんだろうと言う感じで誰もこちらを見ない。それが非常に助かった。
 
急に手持ち無沙汰になった俺の手は、急に外気の冷たさを感じた。
こう言う時の末端冷え性って駄目だなぁ。はぁーと息を吹き付ける。その瞬間は暖かいけどすぐに冷たくなる。
 
「虎徹君。これで暖かいよ」キースが空いていた右手を俺の左手を包む。暖かい。本当にぽかぽかしてるんだな。って違う違う。
「キースさん何をしてるんでしょうか?」「私に君の左手を守らせてくれるかい?」さっき迄のふにゃふにゃの顔ではない。真剣な顔が俺を見つめる。ふざける訳でもなく、あまりに真剣な眼差しに目をそらせられなくなった。
「意味わかんねぇんですけど…?」何なんだこの状況…。ついに酔いでおかしくなったか?
「知ってるかい?左手には信頼や服従。想念の意味があるんだよ?」左手の甲にそっと口付けをし、少し上目遣いの強い瞳がそこにある。瞳はきれいなブルーだなぁとぼーっと見てしまう。
「キース。俺の左手は安くないぞ?」「そうだったね。君はそれでいいんだ。私の勝手な宣言だ からね」ふふふと不敵に笑う。天然はこれだからよくわからない。

「どうでもいいですけど、酒飲むんじゃなかったけ?」右手をダウンジャケットのポケットに突っ込む。左手はしっかりと握られているのであきらめよう…。
「ああ!そうだった!私とした事が!早速私の家に行こう!」いつもの調子に戻って満面の笑みに戻った。そして握ったままの俺の左手をキースのジャンパーのポケットに突っ込んだ。
「なにしてんだよ!」そこ迄は予想していなかったので少し焦ってしまった。
「こうすると暖かい。そして私も暖かい」また無垢な笑顔を向ける。怒る気力もわかない。だから苦手なんだ。
俺の怒るタイミングがつかめなくなるから…。
 
「I think very tenderly of you.」「何だって?キース」「なんでもないよ?虎徹」
 
 
 
 
君のことがたまらなく愛しい。って意味だよ虎徹。声に出さず心で愛しい人を見詰めた。

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