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今日は少し違う要件でワイルド君の会社に来ていた。
どうやらちょっとしたヒーロースーツの強度を測りたいと呼ばれた。
上司からこの話を頂いた時、私は直ぐに了承した。
早くワイルド君に会いたかったし、あわよくばあの女性に出会えるかも知れないとちょっとした下心も無いと言えば嘘になる。「仕舞った…。待ち合わせの時間迄すごくある…」
どれだけ自分が浮かれていたのか恥ずかしくなった。
あの飲み会の後から監視を辞めるようにと、一人前の社会人として見て欲しい。と言ってから3カ月ばかり経った。
前よりヒーローと言う仕事に誇りを持ち始め、前以上に真剣に取り組んだ。
勿論皆との飲み会も相変わらずあって充実した毎日を送っている。腕時計を見るともうすぐランチタイムの時間だ。
約束の時間迄2時間以上有り、何処かで時間を潰そうとエントランスをウロウロしていた。「あら?また迷子ですか?」
ふと優しい声が聞こえて来る。
もしかしてこの声は…!と振り返ると、会いたかった女性だった。
琥珀色の瞳は相変わらずで、整ったスタイル。
漆黒の髪が少し外に跳ね、薄っすらとあるメイクも彼女の魅力を引き出していた。
少しスリットの入ったタイトスカートに、薄緑色のブラウスが上品に着こなしをしていた。「あ、今日はそうでもないんだ。前回はどうもありがとう。そしてありがとう!」
今回は多少会えるのでは無いか?と言う下心もあったせいで、前回のように話が出来ない状態ではない。
この胸の高鳴りだけがどうしても邪魔はするが…。「もしよければもうすぐランチタイムの時間だ。一緒にどうかな?前回のお礼もしたくて」
「え?」
「ダメかな?」女性は一瞬考え、
「私で良いのかしら?私よりもっと若い子の方が楽しいかもよ?」
とクスクス笑った。決して嫌らしくなく上品に遠慮がちに。
左手の薬指のリングが光った。
でも今は其れどころではなく、気持ちが舞い上がって仕舞った。「私はあなたと食事がしたい」
「もう強引ね。…いいわよ」
「良かった!とても良かった!私はあなたに会いたくて仕方が無かった!」
「素敵な告白ありがとう。さて、レディを誘ったからには何処に連れて行って下さるの?」
「とても美味しいパスタのお店があるんだ」
「ふふふ。ではエスコートお願いしますね」
「喜んで」彼女との時間はすごく楽しかった。
きっと自分の顔を見れたとしたら非常に歪み切っていただろうと思う。
話を聞くのが上手く、何を話しても大らかな笑顔で包まれる。
ワイルド君が居る会社なので、思わずワイルド君の事ばかり口にしていた。
其れでも彼女はずっと聞いてくれていた。
彼女は時に照れ臭そうにしていた。そのはにかんだ笑顔が素敵で。
ずっとみていたいと言う欲迄出てしまうぐらいに。「そう言えば、私の事ばかり話してあなたの事を何も知らない。名前も…」
「そう言えばそうでしたね。私は…か……、雨宮と言います」
「アマミヤ…素敵な名前だ。雨宮、またご一緒に食事する事は可能だろうか?」
「そうですね。また私からあなたに声をかける時があったらにしませんか?」彼女は不思議な事を言った。
どうしてだろう?声を掛ける時?「どうして?其れは寂しい。とても寂しい」
「その方が楽しいじゃ無いですか。約束はしない方が素敵ですわ」
「では毎日行けば声を掛けてくれるのかい?」
「あなたはそんなに暇な方じゃ無いでしょ?たまにで良いの。来てくれたら私も声を掛けますから」もっと言いたい事はあったが、彼女の少し淋しげな瞳を見るとそれ以上言えなかった。
「では私の連絡先を教えるのは大丈夫だね。大丈夫。雨宮の連絡先は要らない。もし伺った時声を掛け辛い時にそっと連絡くれたらあなたを探すから」
「でも…」
「此れは私の我儘何だ。必要無いなら捨ててくれても構わない」
「やっぱり強引。受け取って預かってます。きっと必要じゃ無いと思うけど…」
「ありがとうそして嬉しい」
「此方こそありがとう。そろそろお約束の時間ではなくて?」腕時計を見ると約束の時間の30分前だった。
時間前に準備をしておくものですよ。とにこやかに言われ、そうだね申し訳ない。と笑った。
彼女を送ろうと申し出たのだが、彼女はもう少しサボります。と可愛く言う。
時間が押し迫って来たので、ありがとうと一言言って別れた。
今日は何て素晴らしい日だろうか。ワイルド君に会えるだけではなく、焦がれた彼女にも会えたなんて!
何時も以上に浮かれていたのは誰の目にもわかる事で、後でワイルド君に散々どうした?何があった?と質問攻めにあう事となる。