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君の罪、僕の雨


 

ちゅ、と軽く頬にくちづけをし家路に戻る。オドオドとした仕草は今までになく初々しい気分にさせてくれる。

 

おデコくんと付き合い始めて少し経った頃、彼女からたまに頬へと口付けをしてくれることがある。恥ずかしがり屋の彼女からしてもらえる口付けはどんなことよりも嬉しい。

それ以上は求めてしまっては彼女が恥ずかしがって逃げてしまうので、僕はじっと我慢をする。頬の甘い感触を何度も何度も反芻しながら。

 

これ以上の事をしたのは付き合いたいと言ったその日。それでも全部は出来ていない。おデコくんが寝てしまったからだ。

お酒も入っていたし、無理をさせていたと自覚があったから。でも僕も健全な男子。愛しい恋人に触れて一緒に肌を重ねたいという気持ちはすごくある。

しかしフェミニストの自分が無理強いをしない。と思っている限りいつになるのか分からない。

もう一度、いや、何度でもあの吸い付く肌に触れたい。

あ、ダメ。勝手におデコくんの身体をオカズにするなんて…。自己嫌悪に陥りそうになる。

ダメだなぁ。僕ってこんなに性欲があったんだ…。純粋に驚きつつ、はぁ僕余裕ナイかも…。と項垂れた。

「おはようございます牙琉検事」

検事局の執務室前で声を掛けられる。ついつい普通におはようと返し、執務室に入ろうとカードキーに手をかけた。

 

「あ、あの…。ワタシ… 検察修習で来ました、 月見里 寧々(やまなし)です」

 

月見里と名乗った女性はオズオズとこちらを見る。歳は多分おデコくんと同じぐらい。艶やかな黒髪を1つに束ね、如何にも研修生です。といったリクルートスーツ姿で初々しい。

 

しかし検察研修?検察研修は分かる。で、何で僕の所に?頭の中にはてなマークがたくさん浮かび上がる。

 

「あの…御剣検事局長からお伺いしていませんか?本日より2ヶ月間お世話になります」

 

「え?」

 

「はい。検事研修として2ヶ月間お世話になります。もしかして聞いてませんか?」

 

「ちょっと待って。御剣検事局長に確認とってくるから待合室に…、メンドウだ。僕の執務室で待っててくれるかな?」

 

カードキーで認証させ、自分の執務室に案内する。

 

「はい。分かりました」

 

「取り敢えず、検事局長に会ってくるよ。あ、それから、コーヒーと紅茶どれがいい?」

 

ウォーターサーバーから水を電気ケトルに入れる。沸くのを待つ間にカップとお茶受けを出す。

 

「あの、そんな別にお気を使わせることなど…」

 

「イイから。どっちが好き?」

 

「紅茶で…」

 

「ティーパックの物でごめんね」

 

「こちらこそスミマセン…」

 

朝から急でお茶受けはろくなものが無い事にため息が漏れる。

おデコくんとお嬢さんがくれた個装の小粒のチョコレートが目に入った。

個別に包まれているものを二つ取り出す。ケトルが沸騰したまず熱湯をカップに注ぐ。

 

少ししてカップが温まったのを確認しカップのお湯を流しに捨てる。再度カップにお湯を注ぎ、ティーパックを添えて出す。

 

「はい。お茶受けは簡単なモノしかなくてごめんね。検事局長に会ってくるよ」

 

「ありがとうございます。お待ちしてます」

 

ペコリと月見里は頭を下げ、カップを手に取る。

今日は資料のまとめがメインだから、僕は裁判所へ出向くことはない。

今日でよかったと思いつつ、ドアノブへ手をかけ手前へ引いた。

ポスっ

胸のあたりで何かに当たり頭を胸の位置に傾ける。

テカテカとしたおデコがあった。つい思わず、ちゅ、とキスをした。

 

「のわああ!何してんですか!アンタは!」

 

キスをしたおデコくんが暴れるので、ギューッと抱きしめる。はぁー!朝からおデコくんに会えるなんて!しかもわざわざ来てくれるなんて!

 

「可愛いおデコが見えたからつい」

 

「ツイじゃない!離して下さい!」

 

「で、どうしておデコくんがここに居るのかな?」

 

ギュッと抱きしめたままはてな顔で、ツヤツヤおデコを見る。

 

本人はじたばたと暴れる。

「あのですね…人のおデコ見ながら話さないでもらえますか?あと、早く離してください」

「ああごめんね。本当に嬉しかったかたツイ…ね」

 

パッと手をはなす。本当は名残惜しいけれど、あまりやり過ぎると恥しがり屋のおデコくんがさらに暴れ出す。

それと、場所をわきまえて下さい!と自慢の声を近くで聞くと鼓膜がいかれてしまう。

 

「検事があのままだったら最終手段の、耳元で発声練習するところでしたよ。御剣検事局長から伝言を預かってます」

 

「御剣検事局長から?」

 

「はい。何というか、ナルホドさんから言われて来たものなので、俺にはよく分からない内容ですが、『2ヶ月間ヨロシク頼む』だそうです」

 

「…」

 

「検事?どうしました?」

 

してやられた。きっとおデコくんを寄越したのは、成歩堂弁護士の入れ知恵に違いない。別に仕事はきちんと引き受けるが、おデコくんから言われれば何も問題なく引き受けると思ったのだろう。それよりも成歩堂弁護士に僕達の関係を知った上で立ち入られるのがすごくしゃくだった。

「あ、いや、分かったよ。ありがとう。お使いのお礼に何かしたいけれど…」

 

「お礼を言われることは何もしていないです。だったら今日はうちの事務所で夜ご飯食べません?希月さんがお鍋をしたい!と言っていたので後で買い出しに行くんです」

 

「お邪魔でなければ行かせていただくよ」

 

「きっとみぬきちゃん喜んでくれます。今でも熱烈な牙琉検事のファンですからね」

 

「ありがとう。じゃ、また後でおデコくん。名残惜しいけどお嬢さんたちによろしく」

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