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少しだけ時は進み、新人ヒーローだったブルーローズも、セクシーな衣装と女王様と言うキャラで1番の人気を誇るようになった。
それを微笑ましく見守っていたのが、自称みんなのお父さんワイルドタイガーだった。
もう直ぐ新しいヒーローが二人も増えるんだぞー!俺は子供が沢山居て幸せだなー。などと言ってはブルーローズに冷たくあしらわれていた。
 
そんなこんなで、上機嫌だった虎徹はキース、アントニオとネイサンを自宅(虎徹宅)に招いて飲んでいた。
少しずつ食事が喉を通るようになって、今では以前よりも食べられる様になり肌がより艶やかになった。
 
顎鬚は実はボイスチェンジャーで、これではじめて男の声が出るってもんだ。後は胸を潰す以外特に何もしてないよ?あ、若干目の下に陰が出来るようにメイクはしてるかな?後はほぼスッピンだよ。
アニエスとかにバレると大変だよ。アイツは絶対食い物にしてくるからな。
ケラケラ笑いながら、大袈裟な動きをする。
 
「飲み過ぎだよ?虎徹…」
 
背中を摩りながら、横で完全に酔っ払っている恋人を見つめた。
今まで沢山一緒に飲んできたが、此処まで壊れたのもはじめて見てオロオロするばかりだ。
 
「んふ。こんなに酔い潰れたの久しぶりに見たわ~。写メ撮っておこうかしら♡」
「ネイサン、悪趣味だぞ。ここはムービーだ」
 
アントニオはネイサンをいなしつつ二人とも手には携帯が握られていた。撮る気満々で、いやむしろもう撮っていてカシャカシャと酔い潰れている虎徹を此れでもかという枚数を撮っていた。
 
「ほら。キースも撮っておきなさいな。こんなに酔い潰れた姿。幸せだって安心している証拠なんだから」
「こんな姿を撮って、虎徹は怒らないだろうか?」
「そうね~。怒らせない様に手を打ってはどうかしら?」
「ネイサンまさか…」
「まさに何も言えない様にね…ふふふ」
 
ネイサンの若干黒いオーラが垣間見えた瞬間、現KOHのキースも背中に嫌な汗が流れた。
 
 

 
 
「マジで言ってんスか⁉ベンさん冗談キツイですよ」
 
両手をバン!と机に叩きつける。今日は素の虎徹では無く、ワイルドタイガーと言う事で出勤していた。ヒーロースーツを改良するので男の格好でよろしく。とベンさんに釘を刺されていた。
メンテナンスをし、メンテナンスチームのメンバーの談笑の後呼び出しをくらって今に至る。
  
「そう言っても虎徹。現KOHから破格の依頼が来てるんだ。お前さんの賠償金がグッと軽くなるチャンスなんだぞ?知らない仲でも無いんだし、何と言っても今日1日だけなんだ」
でも…!と言ってみたものの、ベンさんは賠償金…と呟いた…。
「あーもう!分かりました!受けます!受ければいいんでしょ!」
「やってくれるか!大丈夫!健全でお前さんには不快な思いはさせない。とKOHから直接言われてるんでね」
バンバン!肩を叩かれながら虎徹は明後日の方向を見ていた。
 
 
此処はシルバーステージにあるとある撮影スタジオ。
ベンさんから手渡された住所を頼りに来た。入ろうかどうしようか決意が固まらず、ウロウロしていた。
やっと来たー!と入り口から見ていたのかネイサンに腕を組まれる。ちょっ!ネイサン!どーゆー!ジタバタしてると、イイからイイからついてらっしゃい!と引っ張られた。
 
 
控え室らしい所に連れてこられた。
目の前にあるのは全て自分に縁の無いものだった。
 
「はい。此れは外す」
「ちょ!あ!」
 
ネイサンが素早くボイスチェンジャーである顎鬚を外す。
渋みのある声から、実年齢より若干若い女性の声に切り替わる。
 
此れ、なーんだ。といいながら前回撮りに撮った酔いどれムービーを見せる。
 
キースの隣で突っ伏し涎を垂らし、はいはいやりますよーーーー。俺はぁやくしょくまもゆーーーー!などと言ってキースに抱きつき、バカみたいなキスをして醜態を晒している自分の姿だった。
 
「やめやめ!恥ずかしい!なんてもん撮ってんだ!悪趣味!」
 
ネイサンから奪おうと手を伸ばすが、自分よりも背の高い相手に通じる訳も無くあっさりと椅子に座らせる。
 
「あたしの前で潰れるからでしょう?さ♡約束守ってもらうわよ♡」
「何の⁉」
「今日のお仕事にも関係する事なの♡あたしの新しい事業でね♡」
 
手を顔の前で絡め、クネっと艶かしい動きをする。
 
「さて、あたしの腕の見せ所よ」
「ファイヤーエンブレムさん…一体何をするのでしょうか?」
「ふふふ。ナイショ♡」
 
耳元であのエロボイスで囁かれた。
 
「いやああああーーーーーー!」
 
 

 
「スカイハイがこう言う仕事をするなんてビックリだわ」
 
ブルーローズは可愛らしい薄花桜色の刺繍入りオーガンジーを、スカートにあしらったAラインのドレス。
青いバラのコサージュを胸元にあしらって流石はアイドルヒーロー。
着こなし方が素晴らしい。
 
「一度もこう言う仕事がなかった…と言えば嘘になるかな。いつもはあのマスクをしていたので素顔は出した事は無いけれども。私はこう言う仕事をしたら変かな?」
 
銀灰色のロングタキシードに身を包み、滅紫色の艶やかなネクタイを締める姿はとても似合っていて、冗談でも似合ってないなどと言えるはずも無い。
しかも変かな?と言って首を傾けたのを見ると、タイガーがいつも大型犬!と言っていた事を思い出し笑いそうになった。
 
「別に変とは言ってないじゃん。私もスカイハイと言う人間の仕事が見れて面白いわ。それに招待を明かす事が無いヒーローが素顔で撮影なんて素敵じゃない?特にスカイハイのファン達はドキドキするでしょうね」
 
教会のセットに腰掛けスラリと伸びた足を投げ出し、プラプラさせる。
 
「来年のHERO TVのカレンダー用として使われるそうだけど、この撮影だけは顔を出しておきたくてね。こんな素敵な教会での撮影なのにあのマスクではね…。ただ顔は完全に見えない様に逆光での撮影になるようにお願いしたんだ」
 
いつもの笑顔では無く、本当に柔らかい吸い込まれる笑顔で微笑む。
そりゃあそうだ。顔出しや名前すら明かしていないんだもの。
 
「で、スカイハイの新郎だけの撮影?カレンダー買って行った人が感情移入しやすいように?」
「いや、今日は相手役がいるんだ」
「ちょ、居るって私たちの正体…ってスカイハイ顔出してるしダメじゃん!」
「大丈夫だよ。ちゃんとHERO TVの関係者だからね」
 
関係者?アニエスとかがくるのかしら?
でもアニエス相手にこんな顔も出来ないでしょうし…。うーんと、深読みしようにもスタッフが多いHERO TVだからいいか。となぜか妙に安心してしまう。
 
「花嫁入るわよー」
 
ネイサンの艶のある声がスタジオに響いく。
連れられた女性はスラリと長身で腰のくびれも、胸の大きさも大人の艶やかな女性で少し焼けた肌に淡いメイク、其れに琥珀色の瞳に目を奪われた。
黒髪をアップにし花嫁らしい純白のドレスとヴェール。
片方だけに肩紐があるワンショルダーのドレスが、より黒髪と映えて神秘的な色気を出していた。
 
「ほら、挨拶大事よ?今の姿はブルーローズは知らないんだから」
「お…う…名前はどうすれば良いんだ?」
「雨宮で良いんじゃない?」
「お…、お…う」
 
こそこそ二人にか聞こえない声で話す。
 
「今日はよろしくお願いします。雨宮です」
 
モジモジと両手を前にクロスさせ、指を絡め落ち着かない様子でこんな撮影慣れていない様子で緊張が伝わる。
 
「私あんなに綺麗な人HERO TVスタッフで見た事ないわ…。ほらスカイハイ!見ないの!?」
 
相手の女性が来たのに何も言わないスカイハイに、肘をこつんと当てた。
 
「ああ、すまない。緊張してしまって…」
「あら?スカイハイでも緊張するの?」
「そうだよ?すごく緊張しているよ。すごくね…」
 
いつになく言葉が震えていて、逆に新鮮だった。あのKOHも緊張で声が上擦るんだなって。
いつもは天然で通っているのに、言葉一つ出なくなっていて本当に純情な少年って感じ。
今日は来て正解ね。こんな姿がみれるんですもの。
 
 
 
 
 

 
 
 
撮影の前にネイサンが花婿と花嫁により自然に映って欲しいので、コミュニケーションをはかる為30分二人っきりでお話ししなさいな。とキースと虎徹をおいてスタジオから出て行った。
二人とも取り敢えず取り敢えず感謝しつつ、会話がなかなか出ずにいた。
キースはポリポリ鼻の頭をかき、虎徹を見つめる。
 
「すごく奇麗だ…。こんな時に君になんて声をかけていいのか分からないよ…」
 
左手にそっと触れ、唇を落とす。
 
「俺だって、こんな仕事とか知らなかった…。キース俺変だろ?」
「奇麗だ!とても美しいよ。夢のようだよ虎徹」
「ば、ばか。恥ずかしい事を真顔で言うなよ…」
 
赤く染まった顔を隠すように目線を下げる。男装ではなく本来の素顔でメイクを施されている。
元々長いまつげはマスカラで上にクリンと上がって、元々印象的な目元はさらに可憐さを増していた。こんな可憐な女性が自分の為にいてくれる事が幸せで、このまま抱きしめてどこかに行きたい気持ちを抑える。
 
「虎 徹が今でもトモエさんを愛しているのは知っている。楓ちゃんを愛しているのも知っている。でも、こんな私を愛してくれている虎徹も知っている。私はずっと 貴女が守りたいすべてを守っていく事を誓う。この気持ちは嘘偽りないよ。だからこの左手の薬指にもう一つリングを付けもいいかな?」
 
「キース…。それプロポーズ?それとも今日の撮影用の台詞?」
 
「まさか!撮影用の台詞何て…」
 
何か誤解を与えたのでは?と色々言いかけた唇に虎徹の左手の人差し指を押し当てられる。
 
「ごめん…。意地悪言った。キースが嘘言える人間じゃない事知ってる」
「じゃあ何故?」
 
不安になり彼女をみた。まさかこう言う事は嫌いだったのだろうか?騙した形とはいえ、二人の記念に残しておきたかった。仕事と言わない限りこう言うスタジオには来てくれない事も分かっていた。
 
「笑うなよ?花嫁のモデルに嫉妬してたんだ俺…。その言葉は俺じゃなく、『花嫁』と言う存在にだけ言ってるんじゃないかって思って…。ごめん…俺すごく嫉妬してる」
「可愛い…。そして愛おしい」
「何時迄経っても嫉妬してしまう俺は、いやなんだ」
「嫉妬してくれるって事はそれぐらい虎徹の心の中にいるって事でいいのかい?」
「言わせるな…馬鹿…。俺は嫉妬深いぞ。一度キースを好きになったらずっと愛し続けるぞ?」
「望む所だ。私も嫉妬深いよ?虎徹が私以外の異性と一緒にいる所を見ると胸が引き裂かれそうになる」
 
両手を腰にまわす。
少しだけ彼女を抱き上げる。彼女はとても軽くてすぐに持ち上がってしまう。
でもすごく強くて、奇麗で、引き込まれてしまう。
 
「キース。俺は当分ヒーローやめる気もないけど、一生大事にしろよな?」
「ああ…一生懸けて愛し続けるよ」
 
二人でそっと触れるだけの口付けをかわす。
これから先どんな苦難があろうとも、二人ならきっと乗り越えられる。すべてを受け入れた男と、すべてを曝け出した女はきっと末永く…。
 
 
  

 
 
 
 
「本当にお似合いだったわよ?撮影なのかそうじゃないのかよくわからなかったぐらいだわ!」
 
ブルーローズが興奮気味に話す。
 
「喜んでもらえてよかった。そしてありがとう」
「で、タイガーは何ですべて終わってから来たの?」
 
いつも通りの冷たい一言にいつも通りの言葉を返した。
 
「雨宮さんと一緒がよかったな〜!色々話したかったのにー」
「は?呼ばれて来たんですけど!?」
「あたしが呼んだのよ?打ち上げだから来いってね。雨宮は仕事に戻ったわよ。残念ね♡」
「で、打ち上げ会場を手配しているのが、ロックバイソン君だね?」
「そうなのよ〜ん。今日は色々特別な日だし、ね?」
 
ね?と虎徹とキースに向けてウィンクをする。
虎徹は、さあどうだかね。と言って顔を上げ、キースは、実にすばらしい撮影だったよ!と両手を広げた。
 
「ねぇ?どういう意味?ファイヤーエンブレムどういう意味?」
 
何がなんだかよく分かってないブルーローズが、ファイヤーエンブレムに食いつく。
人差し指を腫れぼったい唇に当て、
「大・人・の・話・よ♡」
と一言言う。
 
「意味分かんない」
 
ガスッ!とブルーローズは虎徹の足を蹴り飛ばした。
 
「何すんだよ?!」
「八つ当たり!言わなきゃ分かんないの?!」
「うわー思春期だー反抗期だー!お父さんこんな娘に育てた覚えないー!」
「ははは。そうだね?私もそんな娘に育てた覚えはない。そして悲しいぞ!」
「あーーー!!もう!うざいー!」
 
大声で笑う大人げない大人二人の左の薬指には、リングが輝いていた。
 
 
 
 
 
You gave your heart to me, so I'm gonna give you mine.
 
あなたがあなたの気持ちをくれたから、私は私の気持ちをあげる。
 

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