After kissing comes more kindness.
「あのさー、こんなおじさんと飲んでて楽しいわけ?」
「突然何を言い出すんだい?楽しい!実に楽しいよ!虎徹君!」
俺 は頬杖をつき、たいそう綺麗なリビングでピーナッツを手に取りながら言葉を落とす。其れは当たり前で、此処は俺の家では無くスカイハイ、つまりはキースの 家。ゴールドステージの一番良い場所に立っている高級マンションだから。一人暮らしには広すぎる部屋と、如何にも高そうな家具やらが並んでいる。前から聞 いていたゴールデンレトリバーのワンコ(ジョンと言うそうだ)が居て、如何にもお金持ってますって感じの生活空間で、正直苦手な空間でもある。
なんて事を思いつつ話をすると目の前の男は間髪入れずに、楽しいよ!と大げさに両手を上げる。其れも凄い笑顔で…。オジさんは少しビックリです。あんなに飲んだのにこいつはしれっとしている。KOHだからって事ですか?
こんな会話の発端は、シルバーステージの寿司バーでキースと飲んでいた。そろそろ帰ろうとしたところ、キースが駄々を捏ねもっと飲みたい!と言い出したのだ。あーだこーだ言ってみたものの聞き入れては貰えず、ズルズルとキースの自宅で宅飲みとなった。
オジさん明日朝から始末書仕上げないといけないんですけど…。と心の中でゴチるが、目の前の男には其れがイマイチ理解して貰えないのは、此処に居る自分がよくわかっていた。
コンビニエンスストアで買った焼酎に氷を入れ、人差し指でくるくる混ぜる。
するとキースが、虎徹君!お酒を飲むのもワイルドだね!とキラキラ笑顔で上機嫌にビールを空けていく。虎徹君が買ってくれたビールは美味しいよ!とても美味しいよ!といちいち大げさに喜んで。其れはコンビニエンスストアで適当に買ったんですけど?と心の中で突っ込んだ。
しかし飲んでる量は明らかに向こうの方が多いはずなのに、顔色一つ変えていない。何なんだ?こいつザルか?と思いつつちびちび焼酎を喉に通す。
飲んでる時に視線を感じる。ってもまぁ一人しか視線を送ってこないわけで…。
「あの…キース。そんなに見つめらてもオジさん何も出ませんけど…」
「ああ!すまない!実に申し訳ない!ただ、虎徹君の喉仏がセクシーだなと思ったんだ」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すのだろう?もしかして顔には出ていないが、相当酔ってる?あー、しくじったなぁ。早くこの訳の分からない話題を変えるか…。
「いや、その、お酒を飲んでいる時にね、喉仏がコクコクと上下するのが凄くセクシーなんだよ。私のはそこ迄目立たないからね」
うっ とりと瞳に色を混じえ、俺の喉仏を見詰める。いやいや、そう言う趣味は無いんですけど…。もしくは純粋に子供の様に思っている事を素直に口からだだ漏れて いるのかも知れない。相手がわざとそう言うことを言ってくるのであったら、オジさんがキスの一つでもして腰砕けにして何も言えない様にしてやるのに、相手 がキースだとさっぱり掴めない為軽く躱すしかない。はぁー、天然とかやり辛いなぁ…。
「オジさんはそういう言うのは可愛い女性から言われたいの」
「そうだね。でも私は素直な気持ちでそう思ったんだ」
「あのなぁキース。どういうつもりで言ってるか知らないが、そんな事は綺麗なお嬢さんに言うもんだ」
「どうしてだい?」
そういいながら肴で買ったビーフジャーキーを開ける。キースは俺の行動を見詰めて、普通に何故?と聞き返す。何故でもないでしょうが。
「俺はそんな事言われても嬉しくもないの」
「虎徹君は私が苦手かい?」
「はぁ?」
あまりにも話の流れとは別で、思わずおかしな声が出る。
「苦手だろう?」
「正直に言うと、苦手」
隠しても別段問題ないだろう。お互いに酔っ払いだ。何か言われても、万が一相手を殴り倒す事があっても、酒の席だ。覚えていない。と後日誤魔化せばいいか。
「やっぱり。其れでも私と寿司を、食べに行ったりしてくれる虎徹君は私はとても好きだ」
色を帯びた瞳は、更に濃くなる。
「奢ってくれるから行っただけだ」
その瞳を見ない様に、目に入らない様に横を向く。
「そんな事ないさ。私は君をもっともっと知りたい」
声がより近くなった気がした。これは…ヤバイ…。
「何言ってんだ。俺はそう言うお前が苦手って言ってるでしょうが」
何時の間にか肩を抱かれ振り払おうとキースの方向を見た。
何やって…!声を出す前に遮られる。唇には柔らかい感触と、舌で歯列をヌルっとなぞられた。舌の動きがあまりにも久しぶりのリアルな感触に、気が一瞬遠のく。
遠のいた意識を取り戻して次に、俺が飲んでいた焼酎でもキースが飲んでいたビールでも無い味が口の中に広がる。
え?俺キスされてる?え?はぁ?な!なん!?うま…い…
俺より大きな口が貪る様に、唇を甘噛みする。息が出来ない。
舌で歯列と歯茎を愛撫の様に舌を動かす。情けない話だが、俺よりも体格がよく若い男の力に押され抵抗すら出来なかった。あときっとキスとか下手くそだと思い込んでいた分、上手くてこちらが逆に腰砕けになっていた。
舌で口の中を犯され、あまつさえワインがグチャグチャと卑猥な音を立て俺の耳をも犯していく。
「や…、め…、キー…ス!」
必死に突き放そうと、胸板を力一杯押し抵抗した。抵抗しなければ今目の前にある快感に飲み込まれそうになるからだ。
「もっと素直な虎徹君を私に見せて」
「んふ!」
ワインが更に口内を、嗅覚を犯す様になだれ込む。そしてキースの舌が口の中のワインをかき混ぜ、俺の舌も吸い込む。金糸の髪がキラキラと揺れて、目の前におかれている状況が理解出来ない。
ワイシャツも乱暴に引っ張られたせいか前がはだけ、その間に手が割り込んだ。
ヤバイ…!こい…つ、手馴れてる…!早く、逃げ……!
「んー!」
俺の考えがわかってると言わんばかりに、割り込んでいた手が乳首をつまみあげる。痛みと、アルコールで敏感になっていたのか、声が漏れる。
「虎徹君は、私に口づけをされて乳首をつまむと、そんなによがるんだね。卑猥でとても魅力的だ」
一瞬いつもの表情から、ドス黒い何かが見えた。天然だと言うのも全ては計算なのかも知れない。天使の様に何も知らないといった普段から想像出来ないぐらいに、舌と指で犯されて後味の悪い淫夢を見れいる気分だった。
唇からの快楽が消えたと思ったら、胸と脇腹を執拗に撫でる。常に耳にはキースの舌が這い回って、更に羞恥心を煽り出す。
「ん…!ふ…」
必死で声がもれない様に、喘いでないと思いたくて、人差し指を必至で噛んだ。この声は自分の指を噛んでいるから出た声だと思いたかった。
「声を聞かせて?指を噛んでいては君の声が聞こえない。私の大好きな虎徹の声が聞きたい。そして感じたい」
脇腹からどんどん下へ伸びていく手が、もう俺自身止められない事と、キースは止める気はない抗うな。抵抗するな。と言っているようだった。
「キー…ス…」
「私は君が大好きだ。そして愛している。虎徹君の心も身体も私は欲しい」
肩を抱かれ、頭の上から啄む様な口づけを落とす。そしてジーンズ越しからでもわかるぐらいに膨らんだ其れが今の状態を物語っている。
俺は…、男に…、キースに…、考える事が出来ない。出来る訳も無い。
頭では否定している。しかし俺の身体はどうだ?熱を欲しがって、達したくてもうどうでもよくなっている。
其れでも最後の理性が一線を超えない様に、耳鳴りがした。これ以上はやばい。取り返しがつかなくなる。
「やめ…、俺は…、男に……興味は無い…!」
「私もだよ。だけどね、虎徹君だけは違うんだ。君のその誰も寄せ付けない空間と、気高く付き進む心と身体を手に入れたくて仕方がないんだ」
言い放つ笑顔は、まさに天使。しかしその笑顔の裏にはドス黒い顔も持っている。どうして俺なんだ?お前を尊敬して、お前になら捧げてもいいと思っている奴だっているだろう。
「だから…って…!」
「虎徹君…多分これが恋というものだろう。私は君を愛している。そしてその気持ちを虎徹君と分かち合いたい」
また口づけを落とす。淫靡で自分が得たい快感をすぐに与えてくれる。
遂に指先まで痺れ、全身全てから快感を得ようとモゾモゾとくねる。
キースの舌が口内を犯し、その舌に自分の舌を絡める。
男の性と言うものか、早く快感を欲してしまう。
唇の端からだらしなくよだれが垂れる。ゆっくりとつたう涎をうっとりとした表情で、舌で舐める。
口移しで飲まされた酒のアルコールのせいか、それとも毒に当てられたのか、思考回路がおかしくなってく気がした。
「私は手に入れたいと思ったらどうしても手に入れたいんだよ?それだけわたしは強欲だ」
そう言ったキースに、俺は溶けて堕ちた。
After kissing comes more kindness.
キスをした後は優しさが増す