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一週間前キースからカードタイプのスペアキーを預かった。
と言うよりは強引に渡された。要らないと拒否しても、あの体格で犬のようにキューンと鳴く幻聴が聞こえながら、ダメかい?と言われたら受け取るしかなくて…。
キースはゴールドステージの一角に聳える高級マンションに住んでいる。
俺とは段違いで、まぁ賠償金の方で稼いだ分が無くなってしまうのだけれど…。
きっとあの天然を毎日見ていても飽きない。
いや、犬を見ている気分になる。
金色のふわふわした髪は撫でてていて気持ちがいい。
やたら触っていたのは、そう言う理由もあったりする。
作った料理はビックリする程美味しそうに平らげる。
健康管理で毎日同じ食事を摂っていると記事を見かけた時に、すごく申し訳ない気持ちになった。
俺が作った料理はキースの健康管理の邪魔になるだろ。記事で読んだんだ。
どうして教えてくれなかったんだ?と言ってみると、
虎徹が作った物に文句を言うと思ったのかい?私はそこ迄罪人ではないよ。
真顔で真剣に恥ずかしい事言う。
思い出したら顔が真っ赤になった。
学生の恋愛かよ!
モヤモヤした気持ちを紛らわすように、カードキーを人差し指と親指で挟み、ふぅ~と息を吹き付け、クルクルと回る。
今はまだ仕事中。事務仕事で打ち込み作業に飽きてきた所で、デスクにのベーっと突っ伏し頬をあてる。冷たくて気持ちいい。
デスクワーク時は素の鏑木虎徹で、キースが綺麗だと言ってくれた本当の自分。
男の格好ではない。
何時でも会える程このカードキーの持ち主は暇ではない。
何だかんだ2ヶ月程ヒーローの時以外は会えずにいた。
何分もう少しで、今年度のKOHが決まる大事な時だ。お互いで決めた事でキースは最後まで嫌がったけど…。
「私は大丈夫だよ」と。ただそこは俺にも先輩ヒーローとしての意地もあった。
そして俺だけの為に縛り付けたくなかった。
キースの鼻をつまみ、「言う事を聞かせたかったら見事KOHになるんだ。うかうかしてると俺が足元を掬いに行くぞ」と言い放った。
するとどうだろう。犬のように尻尾を巻くかと思い来やこちらを見据え、「私は虎徹が相手でも負けない」と睨み返してぞくりときた。そうだ。其れでこそヒーローだよ。
それから逢っていない。これは俺の我が儘だ。本当は逢いたい。
抱きしめて欲しい。優しい声で名前を読んで欲しい。
でも、分かっている。これ以上望んでしまっては贅沢だ。
「虎徹…、そんなに残業したい程仕事熱心だったのか?」
「ベンさんやめて下さいよ。俺はこう言う仕事は苦手なのー」
「もう少しで定時だってのに、手を休めてたらそう言いたくなるさ」
ちらりと壁掛けの時計を見た。後10分足らずで定時になる。
「ベンさん愛してるー!さて終わらすぞー!」
「現金な奴め」
「そんな事言って教えてくれるベンさんが大好きだよ」
ベンさんが柔らかな微笑みを向けてくれる。
もう少しで定時。
もう少しでKOHが決まる。